実践!事業承継・自社株対策
不動産売却か、不動産M&Aか【実践!事業承継・自社株対策】第272号

2025.10.23
Q:当社はビル1棟を所有して、不動産賃貸業を行っております。株式は父から相続した兄弟3人が、ほぼ均等に所有しています。
この度ビルを売却して、最終的には3人で現金を配分しようと考えています。そのため、会社は清算することになるかと思います。
不動産M&Aということも聞くのですが、不動産売却とはどのように違ってくるのでしょうか?特に税金面についてお聞きしたいと思います。
A:今回ビルの土地建物(不動産)を売却するとのことですが、会社がそのビルの不動産賃貸業しか行っていない場合は、会社ごと売却してしまうことも考えられます
それが不動産M&Aです。
もちろん、会社が不動産賃貸業以外の事業を行っている場合は、会社ごと売ってしまっては困ります。
貴社がビルを保有して、不動産賃貸業だけを行っているのであれば、不動産M&Aが考えられます。
不動産M&Aは、通常の不動産売却とは、基本的に次の点が異なってきます。
1.売る人と、売るものが違う
・不動産売却は、会社が不動産を売却します。
・不動産M&Aは、株主がその会社の株式を売却します。
2.税金のかかり方が違う
・不動産売却は、売却代金が会社に入ってきます。
したがって、それにかかる税金は、法人税になります。
法人税の実効税率は30%~35%くらいになります。
その他にも、建物を譲渡しているので消費税がかかってきます。
・不動産M&Aで株式を売却した場合は、株主個人にお金が入ってきます。
この場合かかる税金は、株主個人の譲渡所得として、所得税・住民税が、約20%かかってきます。
株式の譲渡なので、消費税はかかりません。
※いずれの場合も、取得費を引いた利益に税金がかかってきますので、取得費によっても税額が変わってきます。
ただ、株式の譲渡所得の方が分離課税で一律約20%なので、税率は低くなります。消費税もかからないので、税金的には、不動産M&Aの方が得策かと思います。
3.法人を清算するか、しないか
・不動産売却の場合は、会社にお金が入ってきますので、それを株主に分配するためには、ご質問にもあるように、清算などをする必要があります。
清算した場合には、残余財産の分配ということで、株主にお金を戻しますが、これは株主にとっては配当所得になります。
配当所得は総合課税ですので、所得が多い人は累進税率で、高い所得税・住民税がかかってくる可能性があります。
法人で不動産売却の法人税や消費税を支払った後に、さらに、個人で配当所得として所得税や住民税を払わなければなりません。
不動産売却で個人にお金を配分するには、多くの税金がかかってくることになります
・不動産M&Aの場合は、株式の売却にかかる税金のみで法人は購入者に移りますので、法人の清算等を考える必要はありません。
また、不動産を購入する方も、不動産を購入すれば、登記料や不動産取得税がかかりますが、不動産M&Aによる株式の購入であれば、それらは必要なくなります。
4.不動産M&Aのデメリット
以上からすると不動産M&Aの方が良いように思われますが、次のようなデメリットもあります。
・あくまでM&Aですので、会社に隠れた債務やリスクがないかどうか、いわゆるデューデリジェンスが行われることになります。
そのため手間や売却のためのコストが増えてくる可能性があります。
・会社ごと買ってくれる購入先を見つけるのが、通常の不動産売買よりも難しくなる可能性があります。
・また、買取価格は単なる不動産の売却よりも低くなる可能性があります。
税金的には不動産M&Aの方が圧倒的に良いかと思われますが、上記のようなデメリットも勘案した上、ご検討いただければと思います。
《担当:税理士 北岡 修一》
編集後記
私の最近の編集後記は、政治イベントと相前後していることが多いので、そのことを書いていますが、今回はついに高市早苗氏が首相になりました。公明党が与党から離れ、維新とくっついたことにより、急にものごとが動き出してきた感がありますね。
是非、日本がより良くなるための政策をどんどんやって欲しいですね。
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