実践!相続税対策
小規模宅地の特例:申告期限までの継続要件とは?【実践!相続税対策】第397号
2019.08.01
おはようございます。税理士の利根川裕行です。
このメルマガでも、何度も書いておりますが、相続税を減らす(節税)ためには、不動産評価における小規模宅地の特例を、確実に適用することが重要です。
小規模宅地の特例には、大きく分けて次の2つがあります。
・居住用の宅地(被相続人の自宅敷地)
・事業用の宅地(被相続人の事業、貸付け事業、同族会社での事業用)
居住用の宅地は、330m2まで80%評価減をすることができます。事業用の宅地は、400m2まで80%評価減をすることができます。
貸付け事業用の宅地は、200m2まで50%評価減をすることができます。
小規模宅地の特例を受けるための要件は、いくつかありますが、今回はその中の「継続要件」に絞ってみていきます。
継続要件は相続開始後の要件となります。
たとえば、居住用宅地を相続した場合の継続要件は、下記の2つです。
・相続開始後、申告期限まで、その居住用宅地を保有していること
(保有継続要件)
・引き続き、申告期限まで、そこに居住していること
(居住継続要件)
なお、居住用宅地については、相続により、誰が取得するかで、継続要件の適用範囲が変わってきます。
配偶者が取得すれば、継続要件は必要ありません。取得しただけで無条件で、特例が使えます。
居住用宅地を、配偶者が取得し、申告期限前に売却しても、他の要件を満たせば、小規模宅地の特例は使えるのです。
同居親族が取得する場合は、2つの継続要件が関係してきます。
相続により居住用宅地を取得し、申告期限まで保有し、かつ、申告期限まで引き続き居住している場合に、特例が使えます。
配偶者および同居親族がいない場合は、俗称「家なき子」が取得すれば、居住用宅地の評価減を受けることができます。
家なき子は、持ち家があるため別居している相続人ですので、居住継続要件はありません。
この場合は、継続要件のうち、保有継続要件だけを満たせばよいことになります。
実務上、相続発生後から申告期限の間に、相続により取得した不動産について、売却手続きをされるケースがあります。
売却を検討していたところに、条件の良い相手先が見つかった場合などです。
そこで、居住用宅地を取得した同居相続人が、申告期限までに売買契約を締結したとします。
申告期限までに、引き渡しまで完了していると、当然のことながら、2つの継続要件は満たすことができません。
したがって、この場合は残念ながら相続税の計算において小規模宅地の特例を受けることができず、高い相続税を払うことになってしまいます。
しかし、相続税の申告期限までに、売買契約を締結したものの、居住用宅地の引渡しが、申告期限後になるケースがあります。
この場合は、申告期限まで、当該宅地を保有し、かつ、引き続き、実際に居住をしていれば、継続要件を満たすことになります。
したがって、小規模宅地の特例を受けることが可能になってきます。
ここまでは、居住用宅地の継続要件についてですが、事業用宅地(貸付事業用宅地を含む)の場合も、基本的に同様です。
事業用宅地等の場合、取得者が誰かによって、2つの継続要件が異なるということはありません。
配偶者が取得しても、保有継続要件、事業継続要件を満たす必要があるということです。
また、申告期限までに売買契約を締結し、申告期限後に引渡した場合でも、保有継続要件は満たします。
ただし、売買契約締結後、申告期限前に、当該事業を辞めてしまった場合は、事業継続要件は満たしません。
したがって、この場合は小規模宅地の特例を受けられない、ということになります。
引渡しは申告期限後であったとしても、申告期限まで事業を継続して行っていなければ、小規模宅地の特例は使うことはできませんので、要注意です。
不動産は生き物のようなものなので、売却のタイミングはとても重要です。その時その時で、条件は変わってくるということです。
また、相続により取得した不動産を売却する場合は、譲渡所得の特例との兼ね合いもあります。
売却を検討されている方は、必ず、事前に専門家に売却のタイミングや特例適用の可否について、よく相談されることをお勧めします。
編集後記
先週7月25日の家族信託活用セミナーも、たくさんの方にご参加いただき、誠にありがとうございます。
講師の坂野司法書士も、皆様がとても真剣に聞いていただいたことを、大変喜ばれていました。
セミナーでは、家族信託の内容を豊富な実例を踏まえて、大変わかりやすく説明していただき、参加された方の満足度も高かったのではないかと思います。
秋ごろに、本年度最後の相続クラブのセミナーを企画したいと思いますので、ご都合がよろしければ、是非、ご参加いただければ幸いです。
メルマガ【実践!相続税対策】登録はコチラ
⇒ https://www.mag2.com/m/0001306693.html